ドラマ「ヘチ 王座への道」はどこまで実話なのか？
この記事では、ドラマの時代背景、党派抗争、そして英祖が即位するまで道のりを史実をもとに詳しく解説します。
ドラマ「ヘチ 王座への道」と史実の関係
ドラマ「ヘチ 王座への道」は、第21代国王・英祖の若年期に焦点を当て、史実をもとに制作された作品です。
実録に記された出来事や実在の人物を参考に、物語としての脚色を交えながら、英祖（イ・グム）が国王に即位するまでの過程を描いています。
【PR】スポンサーリンクドラマ開始時の時代背景（1719年）
1719年からドラマはスタートしていますが、ドラマ開始前のおさえておきたい出来事は次のとおりです。
前年の1718年3月9日には、イ・グム（英祖）の母・淑嬪崔氏が亡くなっています。また、同年2月7日には景宗の世子嬪・端懿王后が亡くなり、景宗は14歳の宣懿王后と結婚しました。
1717年頃、粛宗が左議政の李頤命に王位を延礽君（イ・グム）に継がせるよう命じたという説もありますが、この内容を裏づける実録などの一次史料は確認できません。
【PR】スポンサーリンクイ・フォンと粛宗の死
1719年10月2日、イ・フォン（延齢君）が21歳の若さで病死しました。粛宗の落胆ぶりは大きく、実録には次のように記録されています。
上慟甚, 自爲文祭之, 又親製墓文
＜引用元：粛宗実録1719年10月2日＞
翌年の1720年6月、粛宗も後を追うように亡くなっています。
ドラマではイ・フォン（延齢君）がイ・タン（密豊君）に殺害され、落胆した粛宗が亡くなっていますが、これはドラマの創作です。
少論派が政権を握った辛丑獄事（1721年）
この時代、少論派と老論派は激しく対立していました。粛宗の逝去後、少論派の支持を受けた景宗が即位すると、老論派は病弱な景宗に代わる人物としてイ・グム（英祖）を王世弟に推しました。イ・グム（英祖）は辞退を重ねましたが最終的に王世弟に冊封されています。
しかし、さらに老論派がイ・グム（英祖）の代理聴政を要求すると、これは謀反とみなされ、主要老論派大臣が流刑、多くの重臣が処罰されました。
金昌集（キム・チャンジプ）
李健命（イ・ゴンミョン）
趙泰采（チョ・テチェ）
李頤命（イ・イミョン）
こうして1721年の辛丑獄事（シンチュオクサ）によって少論派が政権を掌握することとなりました。
老論派が完全追放された壬寅獄事（1722年）
少論派は攻勢を緩めず、老論派を徹底的に排除しようとしました。1722年3月には、南人派の睦虎竜（モクホリョン）に「老論派は粛宗晩年に世子だった景宗を暗殺しようとした」と告発させ、謀反事件を作り上げます。
この策は成功し、流刑中だった四大臣は死罪となり、老論派の50名以上が命を落とし、数百人の家族も流刑や死罪になりました。こうして老論派は完全に朝廷から追放されました。この事件は壬寅獄事（イミンオクサ）と呼ばれます。
イ・グム（英祖）の危機
辛丑獄事と壬寅獄事はあわせて辛壬士禍（シニムサファ）と呼ばれます。この一連の事件ではイ・グム（英祖）も謀反の疑いをかけられましたが、景宗と仁元王后の助けによって難を逃れました。
辛壬士禍によって老論派は一掃され、イ・グム（英祖）は政治的な後ろ盾を失い、不利な立場に置かれることになりました。しかし、景宗が亡くなると状況は大きく変わります。
英祖即位とその後の人事刷新｜丁未換局（1727年）
1724年8月、景宗が病死し、王世弟のイ・グムが第21代国王・英祖として即位しました。当時は少論派が朝廷を主導していましたが、派閥対立は続き政局は不安定でした。
英祖は王権の安定を図るため一派に偏らない政治運営を掲げ、追放されていた老論派を再び登用する大規模な人事改編を実施します。1727年のこの人事転換が丁未換局（チョンミファングク）と呼ばれ、後に本格化する蕩平策の第一歩となりました。
英祖打倒の反乱｜李麟佐の乱（1728年）
政権から追放された少論強固派と南人派の一部が連合して謀反を起こしました。李麟佐（イ・インジャ）の乱です。
「景宗のための報復」を名分に密豊君を担ぎ出して、英祖を倒そうと企てたのです。首謀者は辛壬士禍を起こした徒党の一人で、英祖が即位した時に朝廷から追放された李麟佐でした。
李麟佐は密豊君を擁して英祖を倒そうとしましたが、20日足らずで鎮圧されました。 李麟佐は生け捕りにされ処刑、密豊君も賜死させられました。この反乱の鎮圧により、英祖に対抗する勢力が大きく衰退し、英祖の政治基盤は盤石になりました。
李麟佐の詳細はこちら＞＞イインジャ（李麟佐）の家系図【粛宗に滅ぼされた名門一族】
ドラマと史実の違い
ドラマ「ヘチ 王座への道」は史実をベースにしていますが、以下の点は史料には確認できず、ドラマの脚色によるものです。
・密豊君（イ・タン）が殺人を重ね、王位を狙ったとする設定
・延礽君が司憲府と協力して各種事件を捜査・解決したという設定
これらの内容は、「景宗実録」や「英祖実録」などの一次史料には記録がなく、創作上の脚色と考えられます。
ヘチ王座への道に登場する実在した人物
ドラマには多くの実在人物が登場します。主な登場人物とモデルになった実在人物は以下の通りです。
| 登場人物 | 実在人物 | 備考 |
| 粛宗 | 粛宗 | 第19代王 |
| 景宗 | 景宗 | 第20代王 |
| イ・グム/英祖 | 英祖 | 第21代王 |
| イヌォン大妃 | 仁元王后 | 肅宗の3番目の王妃 |
| ソニ王妃 | 宣懿王后 | 景宗の王妃 |
| ソ氏/世弟嬪 | 貞聖王后 | 英祖の王妃 |
| パク・ムンス | 朴文秀 | |
| イ・タン | 密豊君 | |
| イ・フォン | 延齢君 | 英祖の異母弟 |
| ミン・ジノン | 閔鎭遠 | 重臣（左議政） |
| イ・インジャ | 李麟佐 |
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まとめ
ドラマ「ヘチ 王座への道」は史実を基にしたフィクションです。景宗から英祖に至る時代は党派抗争が激しく、英祖（イ・グム）はしばしば政治的な危機に巻き込まれました。
史実では、英祖は王位継承を何度も固辞し、自ら王位を求めた形跡はありませんが、即位後は、蕩平策の推進など積極的に改革に取り組んでいます。
主要な出来事や人物を時系列で整理することで、ドラマが描く背景や脚色の意図をより理解しやすくなります。この記事が少しでも参考になれば幸いです。