「ノクドゥ伝」は実話ではありません。ただし、完全な創作ではなく、朝鮮王朝第15代王・光海君の時代を背景にしたフィクションです。
この記事では、物語が生まれた背景や主人公ノクドゥのモデルの有無、実在した綾陽君の人物像を、史実をもとに分かりやすく解説します。
ノクドゥ伝の着想となった史料とは
Web漫画の原作者ヘ・ジニャンは、安東の資料館で偶然見つけた『避難行録』から物語の着想を得ています。
この史料には、1592年5月12日の出来事として、「大雨の中、王世子の嬪宮が出産した」と記されていました。
十二日辛未。大雨。己正三刻,王世子嬪宮解産
<引用:避難行録 1592年5月12日>
『避難行録』は、朝鮮中期の文臣・鄭琢が記した日記形式の記録で、壬辰倭乱に際しての王族や官僚の避難行動を記録した史料です。鄭琢は戦乱時に宣祖に随行した官僚でもあり、『宣祖実録』にもその活動が確認できます。
一方で、宣祖は世子を確定しないまま亡くなったとする説も見られますが、実際には1592年4月29日の実録において、光海君が世子に冊立されたことが明確に記録されています。
戊午/立光海君諱爲世子。出東宮, 僚屬百官陳賀
<宣祖実録:宣祖25年4月29日の条>
この時点で「王世子嬪宮」とは光海君の正室を指すため、『避難行録』に記された出産は、光海君の子であると理解できます。ただし、この子については『宣祖実録』などの公式記録に記載がありません。そのため、死産あるいは出生後まもなく亡くなった可能性が高いと考えられます。
このように、原作者はこの「一部の記録に記載されているが、その後の行方が不明な世子の子」という点に着目。「もしその子が生き延びていたら」という発想から「ノクドゥ伝」の物語を構想したと思われます。
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光海君には複数の妻がいましたが、公式の史料で確認できる子は、男子1人・女子1人のみです。男子は李祬で、正室との間に生まれた唯一の後継者でした。
<光海君の妻と子供>
| 第15代国王・光海君 | |||
| 正室 | 文城郡夫人柳氏 | 1男 | 李祬(廃世子) |
| 側室 | 昭儀尹氏 | 1女 | 翁主 |
| 昭儀洪氏 | 子女なし | ||
| 昭儀権氏 | 子女なし | ||
| 淑儀許氏 | 子女なし | ||
| 淑儀元氏 | 子女なし | ||
| 昭容鄭氏 | 子女なし | ||
| 昭容任氏 | 子女なし | ||
| 昭媛辛氏 | 子女なし | ||
| 宮人趙氏 | 子女なし | ||
一部には、世子時代に他にも男子がいたとする説も見られますが、『朝鮮王朝実録』などの一次史料に明確な記録は確認できません。
「ノクドゥ伝」に登場するもう一人の重要な人物・綾陽君は実在した人物でした。次に、綾陽君について詳しくご紹介していきます。
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綾陽君は実在した人物で、後の第16代国王・仁祖です。ドラマでは物語の重要人物チャ・ユルムとして描かれています。史実の綾陽君は、クーデターによって光海君を廃位し、王位に就きました。この出来事は「仁祖反正」と呼ばれています。
綾陽君がクーデター(仁祖反正)を起こした経緯
光海君は即位後、王位を脅かす兄・臨海君や永昌大君を処刑しました。この際、綾陽君の弟も謀反の疑いで処刑され、さらに父・定遠君もこれを苦に自害しています。
宣祖の側室の孫にあたる綾陽君は、本来は王位継承の有力候補ではありませんでした。しかし、こうした一連の出来事により強い恨みを抱き、反光海君勢力に担がれてクーデター(仁祖反正)を起こすに至ります。
こうした史実が、ドラマの設定の背景となっています。綾陽君については、こちらの記事で詳しく解説しています。

宣祖の子供や孫の行方
宣祖の死後、王位を継いだ光海君のもとで、王族内部の対立は激化しました。
光海君は、自身の王位を安定させるため、対立の可能性がある王族を排除していきました。こうして、異母兄弟や甥が相次いで粛清され、王統は大きく揺らぐことになります。
| 宣祖 | 息子 | 孫 | 備考 |
| 永昌大君 処刑される |
光海君が粛清 | ||
| 臨海君 処刑される |
光海君が粛清 | ||
| 光海君 第15代国王 |
|||
| 義安君 11歳で病死 |
|||
| 信城君 14歳で病死 |
|||
| 定遠君 自殺 |
綾陽君 第16代国王 |
綾陽君がクーデターを起こす | |
| 綾昌大君 処刑される |
光海君が処刑 | ||
| 義昌君 詳細不明 |
こうした王族の粛清によって不満が蓄積し、最終的には綾陽君(後の仁祖)によるクーデターへとつながります。宣祖の子供や孫の動向は、光海君政権が崩壊した背景を理解するうえで重要な要素です。
ドジュンの正体は柳永慶の孫か?
ドジュンは史実をもとに設定された架空の人物です。ドラマでは、ドジュンは柳永慶(ユ・ヨンギョン)の孫という設定になっていますが、実在した柳永慶の孫にドジュンという人物がいた事実は確認されていません。
また、作中ではドジュンは柳永慶一族の「唯一の生き残り」として描かれています。確かに、柳永慶は永昌大君を擁立しようとして光海君と対立し、粛清されました。一族も連座により流配や官職追放などの処分を受け、家は没落しています。
しかし、史実において一族が皆殺しにされた事実は確認されておらず、この点もドラマ独自の脚色です。
このように、実在の人物と歴史的事実をベースにしながらも、人物設定や展開は大きく創作されており、ドジュンはあくまでフィクションの登場人物です。
ノクドゥ伝に登場する実在した人物
「ノクドゥ伝」は実在人物と架空人物を組み合わせて登場させた作品であり、この点が実話と誤解されやすい理由でもあります。
光海君(クァンヘグン)
廃妃柳氏(ペピ ユシ)
仁穆王后(インモクワンフ)
永昌大君(ヨンチャンデグン)
綾陽君(ヌンヤングン)
柳永慶(ユ・ヨンギョン)
ノクドゥ伝と史実の関係
「ノクドゥ伝」は、第15代王・光海君の時代を背景にした作品ですが、物語の中心となる設定の多くは創作です。
離れ小島で育ったノクドゥが光海君の息子であるという設定や、妓生として生きるドンジュが光海君に家族を殺され復讐を企てる展開、さらにユルムとの関係性はいずれも史実には確認されていません。
そして、光海君の王子に関する記録は残されていますが、ドラマのように秘密裏に捨てられた王子の存在は史実では確認されておらず、物語の根幹はフィクションといえます。
このように「ノクドゥ伝」は、実在の王と時代背景を軸にしながら、創作の人物と物語を巧みに組み合わせて構成された歴史フィクションです。
ノクドゥ伝の原作はウェブ漫画
「ノクドゥ伝」の原作は、2014年に公開された作家ヘ・ジニャンによるウェブ漫画「朝鮮ロコ-緑豆伝-」です。

<ノクドゥ伝の原作「緑豆伝」>
この作品は魅力的なキャラクターと考えられたストーリー展開で高い評価を得ました。17世紀の朝鮮王朝時代を描いた作品で、結婚したくない男と芸妓になりたくない女が徐々に愛し合っていくラブストリーです。
独特な水墨画タッチの絵柄が魅力の長く愛されている秀作です。
作者:ヘ・ジニャン
連載:「NAVER漫画」
話数:全136話(完結)
日本語版:ありません(2021年8月時点)
韓国語版のみ販売されています。
まとめ
「ノクドゥ伝」は実話ではなく、主人公ノクドゥは原作者ヘ・ジニャンによって創作された架空の人物です。
物語は、実在した光海君や仁祖といった歴史上の人物を背景に据えながら、創作の人物や設定を組み合わせて構成されています。
そのため、本作は史実をもとにしつつも自由な発想で描かれた歴史フィクションであり、史実との違いを理解した上で視聴することで、より深く作品を楽しむことができます。