ドラマ「緑豆の花」は、朝鮮王朝末期の激動期を舞台に描かれた歴史ドラマです。どこまで史実に基づいているのか。ペク・イガンは実在した人物なのか。
この記事では、史実をもとに物語を検証し、ペク・イガンの実在性やモデル人物、時代背景、そしてドラマと史実の違いをわかりやすく解説します。
緑豆の花は実話?
ドラマ「緑豆の花」は、「甲午農民戦争(東学農民運動)」という実際の歴史的事件を基に制作された作品です。
実在した人物も多く登場し、歴史の流れを創作で巧みに繋いだ作品となっています。
甲午農民戦争の流れ|史実とドラマの対応年表
甲午農民戦争は1894年2月から約1年にわたり起こった農民の乱です。ドラマでは、次の史実の出来事が物語に描かれています。
※表の話数は全48話基準、日付は新暦表記
| 年月日 | 出来事 | 話数 |
| –1894年– | ||
| 2月15日 | 古阜の民乱 | 第2話 |
| 4月25日 | 第一次蜂起(白山蜂起) | 第10話 |
| 5月14日 | 黄土峴峠での農民軍の勝利 | 第12話 |
| 5月27日 | 長城郡黄龍村での農民軍の勝利 | 第15話 |
| 6月10日 | 全州和約の成立、執綱所の設置 | 第23話 |
| 7月23日 | 甲午倭乱(日本軍の景福宮の占領) | 第29話 |
| 7月25日 | 日本軍が清に攻撃を開始 | 第30話 |
| 8月1日 | 日清戦争の勃発 | 第30話 |
| 7月27日 | 甲午改革(軍国機務処の設置) | 第33話 |
| 10月6日 | 第二次蜂起を宣言 | 第38話 |
| 11月17日 | 南接・北接連合軍が論山に集結 | 第40話 |
| 11月19日 | 牛禁峙の戦い | 第41話 |
| 12月28日 | 逃走していた全琫準が捕まる | 第44話 |
| –1895年– | ||
| 4月24日 | 全琫準が処刑される | 第47話 |
実在した主要な登場人物
緑豆の花は史実をベースとしているので多くの実在した人物が登場しています。
<実在した主要な登場人物>
| 名前 | 読み方 | 備考 |
| 全琫準 | チョン・ボンジュン | 通称は緑豆将軍 |
| 崔景善 | チェ・ギョンソン | 全琫準の同志 |
| 孫和中 | ソン・ファジュン | 全琫準の同志 |
| 金開南 | キム・ゲナム | 全琫準の同志 |
| 興宣大院君 | フンソンテウォングン | 高宗の父親 |
| 高宗 | コジョン | 第26代国王 |
| 明成皇后 | ミョンソンファンフ | 高宗の王妃 |
| 井上馨 | いのうえ かおる | 朝鮮公使 |
| 袁世凱 | えん せいがい | 後の中華民国大総統 |
| 崔時亨 | チェ・シヒョン | 東学2代目教主 |
詳しくはこちら>>緑豆の花の実在人物一覧|甲午農民戦争の史実人物を徹底解説
なお、ペク・イガンの弟・ペク・イヒョンと全州旅閣の娘・ソン・ジャインは史実に物語性を持たせるために創作された架空の人物です。
【PR】スポンサーリンク緑豆の花の時代背景
ドラマの時代背景は、1894年の甲午農民戦争を中心とした激動期の朝鮮です。
本来であれば地方の小規模な民乱で終わるはずだった農民の反乱が、全国規模へと拡大していった背景には、次の要因がありました。
・東学思想の広がりと全琫準の登場
・朝鮮をめぐる清と日本の対立
くすぶり続けていた火種である農民に、全琫準が東学という火を灯し、さらに清と日本の対立という風が吹いたことで、その火は全国へと広がっていったのです。
詳しくはこちら>>緑豆の花の時代背景【農民の乱(甲午農民戦争)が起こった時代とは】
ドラマの背景となった甲午農民戦争とは
甲午農民戦争は1894年、全羅道を中心に始まった農民の蜂起です。その史実を分かりやすく解説していきます。
蜂起のきっかけ|古阜民乱
発端となったのは、全羅道古阜郡の郡守(地方官)の不正と搾取でした。農民たちは不当な徴税や横暴な支配に耐えきれず、全琫準(チョン・ボンジュン)を中心とした武装蜂起へと踏み切ります。民乱に集まった数は1000名以上とされています。
※蜂起(ほうき)とは、はちが巣から一時に飛び立つように、大勢が力に訴えるためにいっせいに立ち上がること。
この段階では王朝打倒ではなく、不正の是正と生活改善が主な目的でした。
古阜民乱から農民戦争へ
政府が介入して郡守を解任すると、農民軍はいったん解散しました。ところが、事件調査のため派遣された役人が財産を横領するなどの蛮行を重ねたため、不満は再び高まります。
そこで全琫準は孫化中・金開南と再蜂起を決意し、各地の東学接主に決起を呼びかけました。1894年4月26日、白山蜂起が起こり、民乱は朝鮮南西部一帯へと拡大していきます。
その後、農民軍は全琫準の呼びかけに応じて数万規模へと膨張し、各地で政府軍を撃破しました。そして5月31日、全州城に無血入城を果たし、道都・全州を掌握します。
この民衆の高揚と連帯の広がりは、ドラマでも印象的に描かれています。
全州和約による農民の勝利
民乱の拡大に驚いた朝廷は清に出兵を要請し、日本もこれに対抗して朝鮮へ派兵しました。清軍と日本軍が上陸し緊張が高まる中、戦場化を恐れた農民軍は政府に弊政改革を条件とする和約を提案します。
1894年、全州和約が締結されて、目的を果たした農民軍は全州城から撤退しました。
執綱所による農民の自治
1894年8月6日に、全琫準と全羅道観察使の金鶴鎮(キム・ハクジン)が全州会談を開催しました。その会談で二人は弊政改革案を進めるために、全羅道の郡ごとに執綱所を設けることを決定します。全州には執綱所の総本部である大都所が設置され、全琫準が各地の執綱所を指揮しました。
こうして、農民軍は借金の取り消し、奴婢文書の焼却、土地の均分などを実現していきます。
王宮の占領|甲午倭乱
内乱はいったん収束しましたが、清軍と日本軍は朝鮮に駐留し続けました。日本は清の影響力排除を狙い内政改革を要求しますが、朝鮮政府は日本軍の撤退を優先して対立が深まります。
1894年7月23日未明、日本軍は龍山から漢城へ進軍し景福宮を占領。迎秋門を破壊して突入し、高宗を事実上拘束しました。これが甲午倭乱(カボウェラン)です。
日清戦争の勃発
日本軍は清国排除の名目を得るため、大院君を擁立し新政権を成立させました。新政権より清軍討伐の大義名分を得た日本は、1894年7月25日に豊島沖で清艦隊を攻撃し、29日には成歓で初の陸戦が行われます。さらに8月1日、日本は清に宣戦布告し、日清戦争が勃発しました。
2回目の決起|第二次蜂起
日本による朝鮮支配の危機を感じた全琫準は、日本軍を相手に再び蜂起を決意します。しかし収穫期や内部調整の遅れにより、参禮で第二次蜂起が宣言されたのは1894年10月でした。
この頃、日清戦争は日本優勢となり、日本軍と朝鮮政府は農民軍を「東匪」として討伐を開始。11月、全琫準と孫秉熙率いる南北接連合軍が論山に集結しました。
牛禁峙の大敗北
1894年11月、公州防衛線の牛禁峙(ウグムチ)で農民軍と日本軍の激戦が始まりました。約2万人の農民軍は丘の突破を目指して幾度も攻撃しました。しかし、連射銃など近代兵器を備えた日本軍の前に大敗を喫します。
装備の差は決定的で、多くの犠牲を出して戦線は崩壊。この敗北を機に農民軍は各地で撃破され、政府軍による掃討が本格化しました。
緑豆将軍の最後と民乱の鎮圧
牛禁峙の敗北後、全琫準は再起を図って逃走しますが、1894年12月、淳昌に潜伏中に部下・金敬天の密告によって逮捕されました。翌1895年4月、漢城へ送られた全琫準は同志とともに処刑されます。
その後、日本軍と政府軍は残存する農民軍の掃討を進め、各地の抵抗は終息し、1年以上続いた甲午農民戦争は鎮圧されました。
全琫準はなぜ緑豆将軍と呼ばれたのか?
ドラマのタイトル「緑豆の花」にもあるように、全琫準(チョン・ボンジュン)は「緑豆将軍」と呼ばれていました。これは身長が約152cmと小柄だったことから名付けられ、民衆の敬愛を込めた呼称だったといわれています。また、幼名が「緑豆」だったという説もあります。
緑豆将軍の写真
ドラマで全琫準を演じたチェ・ムソンは身長182cmと大柄ですが、実在の全琫準は小柄な人物でした。それを示す写真が残されています。ドラマ最終話にも登場した、全琫準が輿に乗せられて護送される場面の写真です。

<全琫準が護送される写真>
写真は1895年2月27日、逮捕後の全琫準が漢城(ソウル)の日本領事館から護送される際に日本人写真家・村上天真が撮影したものです。輿に乗っているのは、戦闘または逮捕時に右脚へ深い傷を負い歩行できなかったためとされています。
現存する決起の文章「沙鉢通文」
古阜民乱の際に作成された「沙鉢通文(サバルトンムン)」が現在も残されています。沙鉢通文とは、主謀者を特定されないよう、どんぶりを伏せて描いた円を中心に参加者の名前を放射状に記した文書です。なお「沙鉢(サバル)」とは、どんぶりを意味します。

<現存する沙鉢通文>
この文書は古阜民乱直前の1893年11月、全琫準ら幹部22人が集まって作成したものとされています。
・古阜城を破壊し郡守・趙秉甲を討つこと
・軍器廠と火薬庫を占領すること
・民を苦しめる腐敗官吏を懲罰すること
・全州の全羅監営を攻略し、漢城へ進軍すること
などの行動計画が記されています。
なお、ドラマ「緑豆の花」のポスター背景は、この沙鉢通文に見られる放射状の署名配置をイメージしたものです。

<緑豆の花のポスター>
まとめ
ドラマ「緑豆の花」は、史実の甲午農民戦争を背景に創作された物語で、実在人物をモデルにした人物も多く登場しています。主人公のペク・イガンは架空の人物ですが、当時の民衆を象徴する存在として描かれています。
史実を基に描かれた「緑豆の花」は、史実を理解してから視聴することで、登場人物の葛藤や時代の重みをより深く理解できる作品となっています。そして本作は、日本ではあまり知られていない朝鮮侵略の歴史を知る手がかりともなる重要な作品といえます。